認知症の症状が出始めた初期の段階では、認知症の人は強い不安に襲われ、自分が自分でなくなっていく恐怖を感じます。思い出せなくなる、できなくなることが増え、周囲の家族と強い摩擦や衝突を繰り返し、本人も家族も両方が疲れ切って途方に暮れるような状況に陥ります。お互いがアイデンティティ(過去に承認した、されたイメージ)の回復に向けた残酷な闘いの時期と言ってもいいでしょう。やがて症状の進行に伴い、厳しい周辺症状(暴言・暴行・徘徊・不眠)が現れてくると、家族は家庭での介護に疲れて、諦めてしまいます。しかし、短期記憶障害を許せるようになり、その厳しい周辺症状が穏やかになれば、本人とその家族の日々の暮らしは少し楽になります。
認知症を予防する生活習慣とは、すなわち、誰にとっても心地よい環境を整える、ということだと思います。心身ともに健康な生活習慣とは、先を争って生き急ぐ現代の人には困難なことかも知れませんが、今日をきっかけに一度立ち止まり脳の簡単なケア方法を取り入れてみませんか。
聞くだけで、ほとんど誰でもリラックスでき、アルファ波が脳内に出現する音楽。それが純正律音楽です。その成果は科学的に立証されたもの。音楽CDを再生できる環境さえあればどなたもすぐに実践できます。安心してご活用ください。
介護老人保健施設「はまなす」での驚きの出来事を紹介します。「はまなす」の認知症専門棟では身体拘束をしません。しかし、21 時の消灯後、数名が徘徊を始めます。廊下を歩きまわり、寝ている人を起し、大声を上げ、喧嘩したり、転んだりと、二人の夜勤スタッフは気の休まることがありませんでした。そこでスタッフは、夕食後のフロア全体に小さな音量で純正律音楽を流し始めました。夕食後は皆さん満腹なので、睡眠薬に頼らなくても、眠気に誘われますが、純正律音楽を使いはじめると、不穏、俳徊がみるみる減り、夜中に起き出し歩きまわる人が約半分に減ったのです。このことは、2004年の全国老健施設大会で発表され、優秀演題のひとつに選出されました。(「純正律 CDブック」福田六花(マキノ出版)より)
※純正律音楽とそうでない同じ曲を聴き比べた時の脳の反応の違いは、脳波測定で証明されています。
私達の身近にある楽器(例えばピアノなど) は、ほとんどが平均律でチューニングされています。平均律とは1オクターブを1200(単位はセント)として、12個の音を均等に100 セントで分割してチューニングする方法です。近代に入り開発された西洋音楽のチュー ニング法で、様々な楽器を同時に演奏する場合、共通のチューニング法を使わないと、合奏できないので、これが重宝されるのですが、厳密に言えばハモらない。微妙に違和感を感じるチューニング法です。
歌のない曲で、BGMのように聞ける音楽です。聞き馴染みのある日本の曲、欧米の曲、クリスマスの曲などタイトルはたくさんあります。演奏はヴァイオリン、ハープ、などさまざまですが、楽器は全て純正律でチューニングされ、演奏者自身が純正律をよく理解して演奏している点が、一般に普及している癒し系の音楽とは異なります。
疲れが取れ、心地よくリラックスできます。認知症の方々が50分に及ぶコンサートをうっとりと聞き続けたり、耳鳴りが気にならなくなった、不眠症で悩んでいた方が枕元で聞いて数分で熟睡できた、など驚くような効果が報告されています。
このサイトではオリジナルのCDを販売していますが、価格はフツーに安く、怪しい組織でもありません。純正律音楽を普及させようと頑張っている団体です。気に入ったタイトルのCDを1~2枚申し込んで試してみて下さい。ちなみに私の音楽仲間の女性は夜寝つけずに夜更かしが続いていましたが、試しに聞いてみた初日に1曲聞き終わる前に寝入ったそうです。
人間の脳波は、アルファ(α)波、ベータ(β)波、シータ(θ)波、デルタ(δ)波の四つに分けられます。日常生活をしている時はベータ波が主体になり、心配や緊張が高まるストレスの多い状態ではベータ波がより多くなる傾向があります。一方、緊張がほぐれリラックスしてくるとアルファ波が出現します。一般的にアルファ波を「やすらぎの脳波」と呼びます。更にリラックスの度合いが進み浅い眠りに入ると、シータ波が出現します。うたた寝や、僧侶が座禅を組んだり、瞑想状態に現れる脳波です。眠りに入る時の心地よさは誰にも経験がありますね、シータ波の出現は究極のリラックス状態を現していると言えるのです。そして、深い眠りに落ちて、精神活動が完全に停止した状態に現れるのがデルタ波です。
--中略--
医師の福田先生は次の実験をされました。スタジオに六人の被験者に集まってもらい、平均律と純正律で演奏されたシューベルトの子守歌を聴いてもらい、それぞれ脳波の測定を行ったのです。被験者には事前に測定の目的などは一切説明せず(あらかじめ知識や先入観を持たずに)実施されたのです。
被験者はそれぞれに頭に脳波計を装着し、大きなスピーカーの前に座ります。脳波計はパソコンに接続され、モニターにはリアルタイムでその人の脳波が映しだされます。この状態で、最初に平均律の子守歌を聴いてもらいます。五秒の間を置いて、次に純正律の子守歌を聴いてもらうのです。
詳しい説明を受けていない被験者は緊張感でいっぱいなため、モニターにはベータ波がたくさん波打っていました。音楽を聴くだけ、脳は測定には苦痛も副作用もないことを説明し、10分間の安静の後、実験が始まりました。
平均律の子守歌が流れ始めると、ベータ波が減少し、アルファ波が出現しました。五秒後、純正律の子守歌を流し始めると、平均律を聴いた時よりも有意にアルファ波が増加しました。更に曲が終わる頃には究極のリラックス状態を示すシータ波までもが、被験者六名全員にちらほらと出現したのです。
--中略--
シータ波は座禅や瞑想といった時や、夢うつつなとても気持ちいい時に現れる脳波です。シータ波が出ている時は潜在意識(普段は自覚されない意識)が顕在化するともいわれ、「ひらめき」や「直観力」が発揮されたり、記憶力や創造力が向上したりするともいわれています。
--中略--
六名の被験者は、二種類のシューベルトの子守歌の違いはわからなかったそうですが、無意識レベルで純正律の子守歌がリラックス状態を引き起こしたといえるでしょう。このことは音楽の好き嫌いや知識の有無、音感に関係なく、純正律が人体に好影響を与えるということを表しています。
--中略--
実験結果から、純正律音楽が人間の脳に作用し、心と体に安らぎを与えてくれることが証明され、福田先生は新たな試みに挑戦されました。勤務する病院で患者さんに聴いてもらうことです。病院の待合室と理学療法室、内視鏡室で朝から夕方まで純正律音楽のCDを流し続けたのです。ですが、待合室ではテレビを見たい患者さんが多く中止となりました。
ところが理学療法室では大きな効果が確認できたそうです。
それまでの理学療法室では顔見知り患者同士の会話がにぎやかで、あまりいい状態ではなかったのですが、純正律音楽CDを一日中流していると、一週間もしないうちに理学療法室からにぎやかな話し声が聞こえなくなり、患者さんはゆったりとくつろぎ、ほとんど眠るような状態で治療や施術を受けるようになりました。順番を待つ患者さんもうとうとする人が増えたのです。
この、リラックス状態で治療を受けることで、痛みや不調の改善効果は大幅に上がり、働くスタッフからも「患者さんの筋肉が緩みやすい」「鍼灸治療やマッサージの効きがいいようだ」「みんなすぐに眠ってしまい、施術のあとスッキリとした顔で目を覚ます」と、純正律音楽の効果を実感してもらえました。更に、スタッフの中で、理不尽な怒り方をして大声を出すマッサージ師の女性が、とても穏やかになり、勤務状態や人間関係が改善したというのです。患者さんだけではなく、一日中聴いているスタッフが最も癒やされていたということなのです。
内視鏡室での効果も目覚ましく、それまでは胃カメラや大腸カメラなどを挿入されるときにパニックを起こす患者さんもいたのに、待ち時間から純正律音楽を聴いてもらったところ、患者さんの不安や緊張が和らぎ、落ち着いて検査を受けられるようになり、中には居眠りされる人も出てくるほどだったそうです。
後年、福田先生が移られた老健施設「はまなす」でのこと。開設一周年の記念行事として、利用者向けに純正律音楽コンサートを開催しました。ヴァイオリニスト玉木宏樹氏を招いてのコンサートです。計画したものの、当日まで心配でたまらなかったそうです。「はまなす」の利用者は脳梗塞、脳出血の後遺症や骨折、パーキンソン病で身体が不自由な方と、認知症が進行した方です。認知症の方が演奏中に大騒ぎしたり、立ち歩いたりするのではないかと、福田先生もスタッフも全員気をもんでいました。
当日になり、玉木さんが純正律で演奏されたカラオケをバックにヴァイオリンを演奏し始めました。演奏開始直後は、「何が始まったのか?」と、とまどいの雰囲気が会場を包み、ざわついていましたが、しばらくするとお年寄りの様子が変わってきたのです。全員がうっとりとした表情でヴァイオリンの音色に聞き惚れているようでした。普段は五分とじっとしていられず、一日中施設内を歩き回っている女性が、目を細め、穏やかな表情でじっと椅子に座っています。見知らぬ人には罵声を浴びせる男性がニコニコして純正律音楽に聴き入っています。遠い記憶が蘇ったのか、涙を流しながら聴いている人もいます。その光景はまるで奇跡のようでした。アンコールを含めて50分のコンサートは大きな喜びと、深い感動のうちに終了しました。施設のお年寄りが、こんなに穏やかに優しい表情でいるところを初めて目にして、純正律の音楽の持つ力を、福田先生は改めて強く知ったのでした。
その後、認知症専門棟のスタッフが純正律音楽の活用を始めました。身体拘束をしない「はまなす」では、21時の消灯後、数名が徘徊を始めます。廊下を歩きまわり、寝ている人を起し、大声を上げ、喧嘩したり、転んだりと、二人の夜勤スタッフは気の休まることがありません。
夕食後、フロア全体に小さな音量で純正律音楽を流し始めました。夕食後は皆さん満腹なので、睡眠薬に頼らなくても、眠気に誘われます。そして、不穏、徘徊がみるみる減り、夜中に起き出し歩きまわる人が約半分に減ったのです。
一度、純正律音楽の効果を確かめるために、純正律をやめてお年寄りの好きな演歌や民謡のCDを夕食後にかけたことがありました。その日のお年寄りはがぜん賑やかになり、寝る前も興奮状態が冷めず、夜中の不穏と徘徊が復活してしまったのです。
それ以来、心が湧き立つような演歌や民謡は昼間にかけ、音楽に合わせて歌ったり踊ったりしてもらい、夕食後は純正律を聴いてベッドに入ると、朝まで熟睡する確率が格段に高まったのです。
このことは、2004年の全国老健施設大会で発表され、優秀演題のひとつに選出されたそうです。
いかがでしょうか、純正律音楽ってなんだかスゴイみたいと思っていただけましたか。一般に、音楽はメロディ(旋律)、ハーモニー(和声)、リズム(拍子)の三要素で構成されています。これらのうち、メロディとハーモニーとでは好まれる音律が異なり、メロディにはピタゴラス音律(1)が適しているとされています。
ピタゴラス音律とは、純正な完全五度の組み合わせによって音程関係を決定するものです。具体的には、まず基準となる音を決めた上で、その音に対して 3/2の周波数関係となる音を決めます。例えば基準となる音を「ド」の「C」とすると、その音に対して3/2の周波数関係となる音は「ソ」「G」になります。このように周波数は厳密な数値で表され、音、音楽もかっちり決まった法則で作られているのですが、20世紀に主流となった平均律は私たちから厳密にハモった音楽を提供してくれていません(言い過ぎかも)。その代り転調や他の楽器との合奏を表現するには平均律は適しています。
音楽理論は置いといて、純正律は無伴奏のコーラスやエンヤ(もはや古いかも)など現代でもポピュラーな音楽として私たちを楽しませてくれます。それらを生活に取り入れることで、私たちの精神衛生上の健康も取り戻すことができるのではないかと思います。
アメリカ国立衛生研究所(NIMH)を中心とした共同研究(*1)が行われ、幼少時期の心的外傷体験の有無により大うつ病(*2)患者を2群に分けて海馬体積を比較した結果、体験有り群の左側海馬体積が有意に減少していることが実証され、幼少時期の心的外傷体験が海馬萎縮と密接な関係があり、これが大うつ病の発症しやすさにも関連する可能性が報告されています。
一方、ストレス防御反応として作動する視床下部・下垂体・副腎(HPA 系)の異常がうつ病では高率に存在し、血中コルチゾール濃度が高いことが知られています。血中コルチゾール濃度と海馬萎縮に負の相関があることから、高濃度のコルチゾールが海馬神経を傷害することも明らかになりました。
現代では年齢を問わず、家庭、学校、職場で強いストレスを受けて、うつになる人は珍しくありません。さて、読者の方は既に察しがついておられると思いますが、①強いストレス→②「ストレスホルモン」コルチゾール分泌→③脳の海馬萎縮→④認知症への進行という図式が明らかになっています。高齢になって認知症の症状が見られるのは年齢による認知症になりやすさからある程度は納得ができても、若い働き盛りの方の若年性認知症の多くはこのタイプではないかと思われます。もちろん、認知症の原因解明はまだ道半ばですので、それ以外の因子もありえるのですが、職場で強いストレスにさらされる事が頻繁に、あるいは長期間続いたとすれば、この可能性は高いと疑うべきでしょう。
特に海馬は短期記憶を格納する部位ですので、就業中の「取引先との約束を忘れる」「重要な商談をすっぽかす」「受注商品の手配をせず損害を与えた」といった、働き盛りの方が若年性認知症で引き起こすトラブルはまさしく、海馬の萎縮による結果だと判断できます。
この「ストレスホルモン」コルチゾールは年齢に関係なく分泌されます。もしも成長期の子供たちが家庭内の暴力や学校でいじめに遭い、長期間ストレスを受けていたら、海馬の成長は阻害され萎縮してしまいます。当然ですが、その境遇の子供たちの(脳の機能として)学習脳力に影響を与えてしまう事になります。その状態を放置する事が、子供の成長、子供の将来に大きな影を落とす事は想像がつきますよね。更に、この経験が脳の障害となり40~60年後に認知症発症を招くきっかけになる可能性を私は恐れています。
(参考: https://psych.or.jp/publication/world080/pw05/ 、https://www.city.osaka.lg.jp/nishinari/page/0000455357.html、https://www.nhk.or.jp/minplus/0028/topic045.html )
(*1)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3230324/
(*2)大うつ病とは?
「DSM-Ⅳ精神疾患の診断マニュアル」に基づいて判断されます。
更にDSM-Ⅳとは、アメリカ精神医学会が1994年に発表した、うつの診断基準第4版です。
以下の9つの症状をもとに判断します。
抑うつ気分が、ほとんど毎日続く。
何事にも興味を持てず、また、楽しさも感じられず、無気力な状態である。
食欲が低下し、体重が大幅に減少した。
睡眠障害(よく眠れない。夜中、何度も目が覚めてしまう。または、睡眠過多)
精神の焦燥、制止状態がみられる。
疲れやすく、だるさがとれない。気力がわかない。
自分に価値を見出せない。自分を責めすぎてしまう。
集中力・思考力・決断力が低下してしまう。
死にたいと思う。自分は、この世にいない方がよい、と考えてしまう。
さて、「1と2」が必ず含まれて、5個以上が当てはまれば、大うつ病であると判断されます。これらの症状が、2週間以上続いて、苦痛を感じているあるいは、生活に支障をきたしていれば、医療機関で診断を受けることをおすすめします。
なお、大うつ病の「大」は英語のmajor(メジャー)を訳したものであり、症状が重い、という意味ではなく、「うつ病の中でも『主となる』タイプ」という意味です。