認知症が私たちに突きつける課題は
抗いようのない老い衰えとの折り合いのつけ方であり
その人を前にしてどうふるまうのかの自問である
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認知症の問題は大きく分けて二つあります。ひとつは自分自身が認知症になる恐怖。もうひとつは認知症の人とどうかかわるかの悩みです。認知症とは加齢に伴って誰でも発症する症状ですので、逃れることはできません。前者の恐怖は中高年に共通した思いでしょう。「今はまだ元気だが、不安を感じ始めてきた」という方は自分だけの課題(予防など)として向き合えばいいのですが、後者の不安は全世代に共通する社会問題です。
社会問題と言っても、徘徊して行方不明になるとか、事故にあうといったことにとどまりません。祖父母や父母が認知症になり介護に関わることが避けられない家族が、同じことを何度も繰り返し聞かされて、キレて暴力沙汰になるなんてニュースは、今やめずらしくもありません。でも、本人たちには大問題。毎日直面している悩みですし、下手をすれば殺人事件の容疑者=悲劇のニュースとして大きく扱われます。もちろんあなたの人生を大きく狂わせてしまいます。そんなこと誰だって嫌でしょう。
そうならないために大切なのは、認知症の人との「関わり方の組み直し」です。あなたと相手とのアイデンティティの再構築をすることが必要なのです。過去からの関わり方を引きずったままでは、お互いに苦しく、身動きが取れなくなり、共倒れになってしまいます。
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一方で、高齢になって認知症になるのはまだ諦めがつくかもしれませんが、40~50代で認知症になると家族の生活は一変します。働き盛りで家のローンも残っているし、子供はまだ学生で学費が必要だ。子供は進学を、夢を諦めることになりかねない。こんなケースでは年金、保険などの使える制度を知っておかないと大きな違いが生まれます。この国の行政は、利用可能な制度をすぐに教えてくれる、なんて親切なマネをしません。知っている者だけが制度を利用できる「申請主義」が原則なのです。